プレドク就活記

LSE修士課程在籍時 (2025~26年) にプレドク就活をした時の記録。 執筆時点 (2026年8月) で私はプレドク開始なので、現段階までに私が経験したことや、LSEで実際にプレドクを雇っている先生から聞いた話を書きます。

私のプレドク就活の戦歴 図: 私のプレドク就活の戦歴

プレドクとは

PhDへの出願を考えている人向けの、主にフルタイムのリサーチ・アシスタントのポジション。 ポスドクと比べてこちらはPhDのに存在するので、プレドク (pre-doc) と呼ばれています。 主に経済学や隣接分野 (経営学、会計学、政治学など) で2018年くらいからこのようなポジションが作られるようになり、執筆時点ではアメリカやイギリスに加えて欧州諸国や香港などでも存在するようです1

プレドクが作られた経緯としては、労働市場の両サイドからこのようなRAポジションに対する要請があったと考えられています。

  • 需要サイド (雇い手となる研究室など): 大規模な実証研究を進めていくにあたって (PhDホルダーと比べて) 比較的安価な労働力がより多く必要になった。
  • 供給サイド (私含めプレドクに就く労働者): PhDプログラムのアドミッションの競争が熾烈化する中で、プレドクを通して研究経験を積み、またプレドクのメンターに強い推薦状を書いてもらうことで、PhDアドミッションでの競争力を上げる。

ポジションの種類

一概にプレドクと言っても様々な種類があります。

フルタイムかパートタイムか

フルタイムがほとんど。私の雇用契約では週35時間となっています2

雇用期間

求人上では1年契約、2年まで延長可のものを一番多く見かけました。 私の契約ははじめから2年契約になっていて、そこまで多くはないパターンです。 業界的には2年間がスタンダードになってきているようですが、1年でプレドクを終えてPhDに進む人もこれまで多くいたようです。 一方で、プレドクを3年以上するのはネガティブイメージを与える可能性があると聞きました。

雇い手の種類

一番多いのは、共同研究をしている (か、そうでなくてもかなり近い研究分野の) 2、3人くらいの教員グループが雇っているパターンです。 一方で、学部などより広い単位で求人がかけられることもあり、その場合はどの先生や分野につくのかより注意して見る必要があります。 私は後者で、十数人からなる「科目分野」(一般的な学部・研究科よりも規模が小さい) での求人でしたが、1年目のメンターは先に決まっており、2年目は未定となっています。

また大学ではない研究機関でもプレドクや似たようなポジションの募集があります。 私が遭遇したものでは、IMFのResearch Analyst Programや、大学と近い関係を持っている (と思われる) 財団系の研究機関 (イギリス) などがありました。 またすでにアメリカにいる人限定になると思いますが、Federal Reserveのリサーチ・アシスタントはプレドクが登場するよっぽど前から存在します。

分野

ほとんどがミクロ実証で、開発、労働、環境、公共、空間などです。 マクロ (実証?) は数少ないながらも存在し、私もマクロがメインになる予定です。 理論系の求人はごく僅かに存在するようで、私は1、2件見かけたと記憶しています。

自身に興味のある分野でプレドクにありつくのが最善ではありながらも、応募時に直接経験がなかったとしても充分選考対象になりうるようです。 例えばGISを使うと思われるポジションは多く見かけますが、これらの多くが応募者に対してGISの経験を求めているわけではありません。 特定のソフトウェアを使えるといったハードスキルよりも、下で述べる応募書類や面接で応募者が新しい分野にどれだけ興味を持っているか伝えることが重要だと思います。

選考の時期

欧米ではアカデミックイヤーは秋から始まりますが、ほとんどのプレドクのポジションは早くて前年度が終わった直後の夏 (6月) から遅くて秋 (9、10月) に始まります。 選考は特にアメリカでは早くから始まり、8、9月から動き出しているようで、10、11月頃大きな波があった後、年明けにもそれなりの数の求人があります。 一方でヨーロッパでは年明けまではさほど求人は見られず、1月以降が主です3。 4月頃になると米欧ともに段々求人数は少なくなっていきますが、それでもなお5、6月になってもオープニングはあるようです4。そのため、本当にプレドクをしたいと考えるならば、時間がかかっても根気よく求人に応募し続けることが大事だと思います。

私は9月下旬から求人をチェックし始め、これから就く予定のポジションのオファーを頂いたのは翌年4月下旬でした。 修士課程のクラスメイトの中では私よりも早くプレドクが決まっていた人も何人かいましたが、それよりも多くの人が私よりもあとに決まるなどしていたように記憶しています。

選考過程

一番多いパターンが、応募書類提出→コーディング課題→1回の面接で最終決定、という流れだと思います。 私がこれから就くポジションもこのパターンでした。 バリエーションとしては、コーディングテストがない、面接が複数回、コーディングテストがライブ形式でZoomを繋ぎながら行うものがありました。

応募書類

ほぼ全てのポジションに必要な書類:

  • CV (Résumé)
  • Cover Letter
  • 推薦状2通

多くのポジションで必要になるもの:

  • 成績表
  • Writing Sample

稀に必要なもの:

  • 3通目の推薦状

CV (Résumé)

西洋社会で一般的なものですが、日本のいわゆる履歴書とは体裁がかなり異なる点で注意が必要です。 学歴と研究経験をそれぞれ新しい順に書き、また求人に関連するスキルを羅列してA4版で1ページに収めます。 求人に直接関連しないこと (例えば飲食店でのアルバイト) は書かない方が良いと思います。

私は学歴は学部から、研究経験はパートタイムのRAと学部の卒論について箇条書きで羅列しました。 また成績表を求められない求人がいくつかあったため、CVに成績を明記しました。

Cover Letter

こちらも西洋社会では一般的だが、日本では馴染みがないものです。 A4版1ページ (450語程度) で自分がなぜこのプレドク求人に応募するのか、どのようなバックグラウンドや経験を持っているのかを相手に納得させるように、またCVにある情報を補完するように書きます。

私は基本的に4段落構成で、

  1. はじめに現在の所属 (修士課程) となぜプレドクに応募するのかを簡潔に1、2文程度で書き、
  2. 学部の卒論でどのような研究をしたか、またどのような分析手法・RとStataのパッケージを使ったか具体的に説明
  3. さらにパートタイムRAでプロジェクトにどのように貢献してきたか
  4. 上では現在の修士課程のことを書きそびれてしまっているのでそれについて言及しながら、特になぜ応募しようとしている特定のポジションに就きたいのか

を書くようにしました。 基本的にはじめの3段落を使いまわし、4段落目で応募ポジションにspecificなことを書く1、2文を各ポジションごとに書き換えていました。

推薦状

一番多いパターンは、求人応募時に推薦者の連絡先を書いておき、必要になった際に雇い手から推薦者に対して直接連絡が行くものです。 一方で応募時に推薦者が推薦状をアップロード、もしくは指定アドレスにメール送付しておく必要があるものも多くありました。

私が実際にプレドクを雇っている先生から聞いた話では、PhDプログラムと比べて推薦状はさほど重要ではなく、面接前後のかなり選考過程の遅い段階で形式的に必要になる、とのことでした。 しかしながら実際には推薦状が重要な役割を果たす場合も多いにあると思います。 特に多くのプレドク求人は競争が苛烈になっているので、最終的に1人を決める、といった場面で推薦状で差が出るパターンもあるのではと個人的には思っています。

プレドクに限らず一般的なことですが、推薦してほしい先生にはできるだけ早く依頼をするべきです。 またほぼ統一的な締切があるPhDへの出願などと違って、就職先が見つかるまで断続的に応募し続けることになると思われるので、その点も推薦者によく相談しておく必要があると思います。

私は学部の卒論の指導教官とパートタイムRAのメンターにお願いしました。

Writing Sample

分量などに指定はないですが、単著のものがよいと思います。 私は学部の卒論を提出しました。 Writing Sampleを求めながらも、ない場合はその旨を記せ、とする求人にも遭遇しました。 おそらく他の応募書類と比べてあまり重要ではないため、応募時点で出せるものがなかったとしても、無理に新しく作ったり応募を見送るよりはそのまま応募を進めるのがよいかと思われます。

コーディング課題

多くの場合、書類通過するとコーディング課題に進みます5。 課題はサンプルデータと分析の指示が渡され、回答をPDF形式でまとめて提出することがほとんどです。

使用言語は私が遭遇したものはほぼ全てRかStata、たまにPythonでした6。 RかStataを選べるもの、R指定のもの、Stata指定のもの全て経験しました。 授業での課題と同じようなものですが、回答は\(\TeX)\)で体裁を整えることがほとんどの求人で求められます7。 私は実際にはQuartoでマークダウン形式で記述し、PDF形式に変換して回答文書を作成していました (この方法では内部で\(\TeX\)を経由するため結果的な見栄えは\(\TeX\)をベタ打ちするのと同じになります)。

内容は、応用ミクロ実証の課題と考えるとさほど相違はないように思います。 ただし、分析指示の具体性は様々で、細かくデータクリーニングの方法や回帰式、必要になるグラフの形式の指示があるものから、データだけ渡されて自分でどのように回帰式を立てるか / グラフ・表にデータを表現するか考えさせられるものもありました。 重要なことは、コーディングスキルそのものに留まらず、分析結果の解釈を丁寧に行うことが多くの場合において求められるという点です。

所要時間や提出までの猶予時間は様々で、以下のようなものに遭遇しました:

  • 課題そのものを渡される前に先に時間を指定しておき、課題メールを受け取ってから \(x\) 時間以内に返信
    • 私が経験したものでは \(x\in \{2, 24\}\) でした。
  • とくに取り組む時間量に指定はなく、1週間後くらいに提出
    • これが一番多いパターンでした。
  • 提出日は1週間後くらいに指定されているが、その上で取り組んだ時間をExcelに (シフト表のように) 記入して提出

多くのパターンでは4-6時間取り組めば充分 (終わらなくてもよい) などと指示されますが、実際にはその倍以上の時間をかけることが多くありました。 また1点目のような短時間で回答しないといけないようなタスクは、基本的に時間はあまり余裕がないものと考えてよいと思います。

生成AIの利用については、多くの求人で適切な使い方をしていれば歓迎する姿勢が取られていました。 また、どのように生成AIを用いたか記述することも求められていました。 対策がかなりなされている課題では、人間には見えない透明な文字を課題ファイルに埋め込んでいることもあったので、(ありきたりながら) 使い方には注意が必要です。

一方で、生成AIなしでコードを書くスキルもなお重要です。 私が経験した中では、生成AIの使用を厳禁とする求人が1件ありました。このポジションでは税務データを扱っており、実際のプレドク業務でもオフラインで生成AIが使えない環境でコーディング分析をするため、とのことでした。 さらに、コーディングテストをライブ形式で行う求人もいくつか遭遇しました。 この場合、Zoomで自身のスクリーンを共有しながらコードを書くことになります。

面接

コーディング課題を通過すると面接が行われます。 ほとんどの場合は面接は1回のみですが、中には2回 (以上?) 行うものもあるようです。 長さは10〜30分のレンジにほとんど収まると思います。 面接の相手は、雇い手 / メンターとなる教員に加えて、現在ポジションについているプレドクの人も参加することがあります。

質問の内容は事前に教えてくれることはほとんどありませんが、大体決まりきっています。

  • 自分がなぜプレドクに就きたいのか
  • これまでどのような研究をしてきたか・現在しているか

の2点はほぼ毎回聞かれ、かつそのまま使い回せるのでスラスラ言えるようにしておくべきです。 さらに、どういった研究に興味があるか、好きな (特定の) 論文は何か、などもよく聞かれるので、各求人に合わせて準備すると良いと思います。 他には私は

  • 普段生成AIをどのように使っているか
  • プレドクの募集をしているプロジェクトの研究が政策にどういったインプリケーションを持つか

について聞かれました。 一方で、面接の前に提出したコーディング課題について追加的に質問されることはあまりありませんでした。

オファーをもらった後

私のポジションは1人のみの募集なので、オファーを長時間保持することはできず、オファーが来てから2日以内に承諾するか辞退するか決めるように、とのことでした。 私はオファーの承諾に合わせてメンターとなる先生と電話で話した後、一度直接挨拶に行き大学の雰囲気を見ることができました。 すでにプレドクがいる場合は、連絡先を渡されそこから状況をうかがい知ることもできるようです8

リンク集

求人サイト

  • PREDOC.org
    • 求人情報の他に一般的なプレドクに関する情報もまとまっています。
  • X (Twitter)
    • 他の求人サイトやプレドクを雇う先生自身がツイートしていることがあり、有用な情報源です。

参考になる読み物

  • Econ RA Guide
  • Reddit r/academiceconomics
    • もともと経済学の広いトピックに関するSubredditですが、プレドクに関しても頻繁に討論されています。Predocと検索してみてください (Twitterと同じで見すぎるのはほどほどに)。

(最終更新: 2026年8月12日)

  1. 日本ではほとんど存在しません。代わりに、以前から国内大学の博士後期課程がPhD留学を目指す人にとってある意味同様の役割を果たしていると言えるかもしれません。 

  2. 普通のフルタイム求人と比べてちょっと労働時間が少ない気がしますが、PhDの授業を各学期1つ履修できるとのことなのでその分なのかもしれません。 

  3. アメリカで早く求人を出すのは、早く人を確保したいというよくあるインセンティブが働いているようです。一方でヨーロッパで年明けまで待つのは、秋学期の成績を見たいという需要があると聞きました。 

  4. ファンディングを取れたタイミングでプレドクの求人を出したりすると遅くなることもあるようです。 

  5. 逆に選考に通過しないと全く連絡をくれないか、忘れた頃に不採用の連絡をもらうことが多いです。 

  6. これは私のメイン言語でのサンプル・セレクションがあるかもしれません。また、私が取り組んだ課題でPythonが必要だったのはマクロの求人でした。 

  7. 「Wordじゃなきゃ嫌」みたいな人はそもそも経済学アカデミアは向いていません…。 

  8. 私には残念ながら直接プレドクの先輩となる人はいません…。